働くうえでの健康管理には、適切な栄養や運動だけでなく、十分な睡眠も重要です。特に現代の忙しいビジネスパーソンにとって、睡眠時間が不足する「睡眠負債」は見過ごされがちな課題です。長時間残業は減少傾向にあります(厚生労働省 我が国の時間外労働の現状)。
しかし、時間外労働が減っても、そのぶん布団の中でスマホでだらだらとショート動画を見続けて夜更かししてしまう人も多いのはないでしょうか。睡眠不足が積み重なると、心身の健康に深刻な影響を及ぼす可能性があります。本コラムでは、睡眠負債がどのようにウェルビーイングに影響するか、その対策について考えてみましょう。
睡眠負債とは
睡眠負債とは、必要な睡眠時間に対して実際に得られた睡眠時間が不足することによって蓄積される「睡眠の借金」のことです。例えば、1日あたり7時間の睡眠が必要な人が5時間しか眠れない日が続くと、2時間ずつの睡眠負債が積み重なり、やがて心身に大きな負担をかけることになります。睡眠負債は、単に日中の眠気や集中力の低下を引き起こすだけでなく、免疫力の低下や肥満、さらには心疾患やうつ病などのリスクも高めるとされています。
睡眠負債がもたらす影響
睡眠負債は単なる疲労感にとどまらず、さまざまな身体的・精神的な影響を引き起こします。例えば、睡眠不足は脳の働きに大きく影響し、判断力や創造力を低下させるだけでなく、感情のコントロールも難しくなりがちです。また、睡眠中に分泌されるホルモンは身体の修復や免疫力の維持に重要な役割を果たしており、これが不足すると体調不良や病気のリスクが高まります。さらに、慢性的な睡眠不足はストレスホルモンの増加につながり、メンタルヘルスにも悪影響を及ぼします。
また、日本人労働者を対象とした研究(Okajima, Komada, Ito, & Inoue (2021))では、睡眠負債が日中の眠気や抑うつ症状、仕事のパフォーマンス低下と関連していることが示されています。特に、睡眠負債は社会的時差(Social Jetlag)よりも、日中の機能障害に対して強い影響を及ぼすことが明らかになっています。
さらに、通勤時間や労働時間などの職場関連の社会的要因が、睡眠負債を介してプレゼンティーズム(出勤しているが生産性が低い状態)やウェルビーイングに影響を与える可能性がある(Takano, Iwano, Ando, & Okajima, (2023))とされています。
睡眠負債を解消するために
睡眠負債を減らすためには、まず自分に必要な睡眠時間を知り、それを意識して確保することが大切です。一般的に成人は1日7~9時間の睡眠が推奨されていますが、個人差もあるため、自分にとっての「理想の睡眠時間」を見つけることが重要です。また、規則正しい生活リズムを保ち、寝る前のスマホやパソコンの使用を控えることも、質の高い睡眠には欠かせません。さらに、リラックスした心身で眠りにつけるよう、軽い運動やストレッチ、瞑想なども取り入れると効果的です。
結局のところ、睡眠は単なる「休息」ではなく、心身の健康を支える大切な要素です。質の高い睡眠を確保することで、日々のパフォーマンスや幸福感も大きく向上するでしょう。ぜひ、この機会に睡眠を見直してみてはいかがでしょうか。
参考文献
Okajima, I., Komada, Y., Ito, W., & Inoue, Y. (2021).
Sleep Debt and Social Jetlag Associated with Sleepiness, Mood, and Work Performance among Workers in Japan.
International Journal of Environmental Research and Public Health, 18(6), 2908.
https://doi.org/10.3390/ijerph18062908
Takano, Y., Iwano, S., Ando, T., & Okajima, I. (2023).
Sleep Debt Mediates the Relationship between Work-Related Social Factors, Presenteeism, and Well-Being in Japanese Workers. International Journal of Environmental Research and Public Health, 20(7), 5310. https://doi.org/10.3390/ijerph20075310



