高齢者施設やリハビリ施設というと、どのようなイメージを持つでしょうか。「塗り絵や折り紙をする場所」「童謡を歌って時間を過ごすところ」「テレビを見ながら静かに過ごす日々」。高齢者をまるで幼児扱いしている施設が多くあります。
そうした受け身の活動が中心の施設では、利用者が「自分が社会と関わっている」と感じる機会は少ないかもしれません。本来、リハビリとは「失われた機能の回復」だけでなく、「再び社会に参加するためのプロセス」であるはずです。
しかし、現実の多くの施設では、利用者の主体性や能力を過小評価し、“保護されるべき存在”としてのみ扱ってしまっていないでしょうか。
「稼ぐ」ことで生まれる自尊心――SEED制度の革新性
そんな中、「たんぽぽ温泉デイサービス一宮」という愛知県の施設では、利用者が“働いて稼ぐ”ことを通じて、自己効力感と社会性を取り戻す試みを行っています。その象徴が、施設内通貨「SEED(シード)」の仕組みです。
たとえば、リハビリ用の通路を一周すれば、歩行100シード、杖200シード、車椅子300シードといった具合に報酬がもらえます。マットトレーニングや階段昇降、タオルたたみといった作業でもシードを稼ぐことができ、それを使ってコーヒーやお菓子を購入したり、カラオケやネイルといったサービスを楽しむことができます。
このシステムは、高齢者を「価値を生み出す存在」として位置づけ直す画期的な仕組みです。稼ぐ、選ぶ、楽しむ――これは、社会人として当たり前だった経験であり、高齢になったからといって奪われるべきではないのです。
ウェルビーイングの観点から
ウェルビーイング(well-being)とは、単に「健康である」というだけでなく、身体的・精神的・社会的に良好な状態にあることを指します。SEED制度のような取り組みは、まさにこのウェルビーイングの3側面に寄与している。
身体的:日々のリハビリが目的をもって行われ、継続しやすくなる
精神的:報酬を得ることで達成感・自尊心が得られ、抑うつの予防にもつながる
社会的:施設内での経済活動や交流を通じて、他者とのつながりが生まれる
特に注目すべきは、「自分の行動が誰かの役に立つ」「対価を得て自由に使える」という自己決定の感覚が利用者に生まれている点です。これは、ポジティブ心理学でも重要視される「自己効力感(self-efficacy)」や「自己決定理論(Self-Determination Theory)」の実践例ともいえます。
高齢者を「支援される側」から「価値創出者」へ
高齢者がただケアされる存在でいるだけではなく、自ら行動し、社会的価値を生み出せる存在であること――これは高齢化社会の中で、これからの福祉やリハビリが果たすべき大きなテーマです。
この「たんぽぽ温泉デイサービス一宮」の取り組みは、その可能性を具体的な形で示してくれています。高齢者の能力を信じ、その力を引き出すこと。それが本当の意味での“介護”であり、“リハビリテーション”なのではないでしょうか。



